だいぶ前の話ですが、酪農家の父の腕に赤い皮疹ができ、皮膚科を受診したことがありました。
診断はウシからうつった真菌症、つまりカビでした。
父はもっと重い病気だろうと心配していたようで、原因がわかって安心していたことを覚えています。
幸い塗り薬ですぐに治ったようですが、私も皮膚科医になり、こういう人畜共通感染症というのは常に気にしています。
この人畜共通感染症は地域差が非常に強く、地域によって皮膚科医で知識に差があります。
気候や飼育している動物によって、媒介する微生物やダニが違うからです。
じつは去年、市場で見たヤギがとてもかわいかったので、ヤギも飼い始めました。
かわいい小さなヤギですので、子供がベタベタ触りまくります。
意外とヤギも人を見分けることができ、愛嬌を振りまいてくれるのはとても嬉しいです。
また、以前奈良県に旅行に行った時に、子供たちがシカをなでなでしていました。
可愛らしくてつい触ってしまうのですが、皮膚科医として思うのはやっぱりダニとかカビがうつらないか気になる。。。
ということで、この記事ではウシ、ヤギ、シカでうつる可能性のある皮膚感染症についてまとめます。
ウシからうつる皮膚感染症
ウシの皮膚から感染する可能性のある主な皮膚感染症として、真菌症、疥癬、ポックスウイルスが挙げられます。
真菌症
牛皮膚真菌症と呼ばれますが、その名の通り牛の皮膚からうつる真菌症(カビ)です。
原因菌としては、Trichophyton verrucosumという真菌です。
Trichophyton属のため、テレビナフィン、ルリコナゾール、イトラコナゾールなどの抗真菌薬が効きます。
頭部に感染して脱毛を起こしてしまう「ケルスス禿瘡」というケースも報告があります。
疥癬
疥癬はヒゼンダニという小さなダニが皮膚に寄生することにより、脱毛・かゆみを伴う皮膚病です。
このヒゼンダニには様々な種類がいます。
人に寄生するヒゼンダニはセンコウヒゼンダニ、ショウセンコウヒゼンダニ、ショクヒヒゼンダニの3種が確認されています。
ウシに感染しているのは、主にショクヒヒゼンダニという種類です。
ポックスウイルス
伝染性膿疱性皮膚炎(Contagious ecthyma)を起こすウイルスです。
ヒトの皮膚に赤いぶつぶつができてくるのが特徴です。
農業従事者、獣医、動物園の飼育員など、動物と直接接触する人がリスクがあると言われています。
経過としては1週間で以下の6期を経過します。
1期 (丘疹期)、2期 (標的期)、3期 (急性期)、4期 (再生期)、5期 (乳頭腫期)、6期 (消退期)と進み、所属リンパ節の腫張や発熱をきたすこともあります。
乳搾りをしている酪農家の指にできることがあるため、特別に搾乳者結節(milker’s nodule)とも呼ばれます。
ウイルスですので、そのまま自然治癒していくことが多いようです。
ヤギからうつる主な皮膚感染症
疥癬
ヤギからもヒゼンダニがうつることがあります。
ヒゼンダニは気温が高い時期に活発化するため、夏期に感染しやすくなります。
夏に疥癬に感染する人が多いなと思っていたけど、暖かくなると活発化するからか…
シラミ
シラミ、ハジラミが寄生することがあります。
シラミは目に見える大きさなので、怪しい部位は触らないようにしましょう。
今のところ、我が家のヤギにはいないように思いますが、注意深くみていきたいです。
シカからうつる主な皮膚感染症
マダニ
野生のイノシシやシカにはマダニ類が必ず吸着しています。
奈良県にいるシカも例外ではありません。
奈良教育大学自然環境教育センターの報告によると、頭部にいるマダニの密度は最大で1.43個体/cm2とのことでした。
この報告を見てぞっとしました…
シカの皮膚にはびっしりマダニがいるということですね…
マダニはヒゼンダニとは異なり、目に見えるくらいの大きさです。
咬まれても気づかないことが多く、ホクロが大きくなってきたと皮膚科に受診されてきます。
そして、実はマダニだったというオチ。
皮膚科あるあるですね。
シカを触りたくなくなる…
疥癬
シカにもヒゼンダニがついていることがあります。
こうしてまとめてみると、多くの動物にヒゼンダニが寄生することがわかります。
最後に
触ることでうつってしまう感染症に不安になってしまいますが、適切な知識を持って、適切に怖がることが大切です。
このような皮膚感染症が疑わしい場合は、自身で判断せずに医療機関へ受診をお願いします。
今回は知らなきゃよかったことが多かった…
参考文献、参考サイト
西日本皮膚科 2019 年 81 巻 6 号 p. 517-522 Trichophyton verrucosum 感染症の 2 例
家畜疾病情報総合システム:http://nichiju.lin.gr.jp/tksn/deer/deer34.html
奈良教育大学自然環境教育センター紀要, 15:27-34(2014)
MSDマニュアル プロフェッショナル版 人獣共通感染症
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