妊娠時に起こる皮膚疾患まとめ

妊娠している時はやはりいろいろと神経質になったり、心配事が増えてきます。

皮膚科領域では、妊娠に特異的に出てくる皮膚疾患というものがあります。

なかなか難しいので一旦まとめておきたいと思います。

よもぎ

私も妊娠中に皮膚にぶつぶつができて、皮膚科医でも焦りました…

スクロールできます
病名初発時期掻痒皮疹好発部位胎児の予後備考
妊娠性疱疹初期〜分娩後丘疹、紅斑、水疱腹部、四肢、全身も好酸球増多
疱疹状膿痂疹初期〜紅斑、膿疱陰部、腋窩、大腿、腹部、粘膜疹も妊娠ごとの発症もある
妊娠性痒疹中期〜後期中〜強丘疹四肢伸側、躯幹
妊娠性掻痒症
(妊娠性肝内胆汁うっ滞症)
後期中〜強皮膚掻痒、掻破痕全身不明〜良妊娠ごとに発症
Autoimmune progesterone dematitis of pregnancy初期〜分娩痤瘡様、膿疱、面ぽう四肢、臀部妊娠ごとに発症
避妊薬による再発もある
妊娠性丘疹状皮膚炎 (Papular dermatitis of pregnancy)初期〜後期丘疹全身
Pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy後期膨疹様の丘疹腹部、臀部、四肢ほぼ良
参考:全身性疾患・内臓疾患の皮膚病変より一部抜粋

妊娠性疱疹 Herpes gestationis

病名にHerpes (ヘルペス)と書いてありますが、ヘルペスウイルスが原因ではありません。

BP180の非コラーゲン領域に対する自己抗体が原因で妊娠時に発症します。

そのため病態としては水疱性類天疱瘡と同じです。

全妊娠者の0.05%に見られ、比較的高齢の妊婦に多いとされています。

また妊娠ごとに反復し、重症化することがしられています。

症状

掻痒の強い、小水疱を辺縁に有する多形滲出性紅斑様紅斑、小水疱、漿液性丘疹が妊娠中期に生じ、分娩後に急速に消退します。

時に好酸球増多、タンパク尿、血尿がでることがあります。

治療

分娩までの間、かゆみを止めることを主体とした対症的な治療を行います。

重症例ではステロイド (胎盤移行性の低いプレドニゾロン) の内服を行うこともあります。

早期診断が必要になり、外用剤だけで経過を見れないことも多いです。

疱疹状膿痂疹 Impetigo herpetiformis

妊娠に伴って生じる全身性の無菌性膿疱が主な特徴です。

妊娠をきっかけに発症した汎発性膿疱性乾癬と考えられています。

症状

妊娠中期以降に、辺縁に膿疱を環状に有する紅斑が多発します。

鼠蹊部、腋窩などの間擦部に初発し、全身に及びます。

掻痒は弱めで、治癒部分に色素沈着を残します。

発熱、悪寒、下痢などの症状を伴うこともあります。

分娩とともに治癒することが多いのですが、次の妊娠時に再発します。

治療

妊娠を考慮して膿疱性乾癬に準じて治療します。

今は生物製剤が全盛期ですが、少しずつ妊婦に対してのデータも蓄積してきております。

胎盤を通過しづらい生物製剤や、胎児に対して影響のない内服薬などわかってきていることも多いので、症状が強い場合は主治医と相談すると良いでしょう。

妊娠性痒疹 Prurigo of pregnancy

妊娠3〜4ヶ月後から生じる痒疹で、出産した後には軽快することが多い疾患です。

多くの場合、2回目以降の妊娠で生じます。

妊娠性丘疹状皮膚炎 (Papular dermatitis )

症状

痂皮を伴う丘疹や結節ができますが、血液検査では異常はでてきません。

アトピー性皮膚炎があるかどうか関係なく、妊娠をきっかけに痒疹結節を生じます。

治療

基本的には外用剤、抗ヒスタミン薬などで経過を見ることで改善することが多いです。

出産することでも改善します。

妊娠性掻痒症 Pruritus gravidarum (妊娠性肝内胆汁うっ滞症 Intrahepatic cholestasis of pregnancy)

胆汁うっ滞と、それに伴う激しい皮膚掻痒症に起因する掻破による二次的な皮膚変化を示すのが特徴です。

手足に強いかゆみがあり、全身に拡大することがあります。

血液検査にて胆汁酸が増加していることがあり、胆汁酸が増加するにつれてかゆみを強くなります。

治療

皮膚科ができることは少なく、ステロイド外用や抗ヒスタミン薬を使うことになります。

産婦人科、消化器内科と連携して治療にあたります。

胎児に影響することがあるため、早期診断が必要になります。

Autoimmune progesterone dermatitis of pregnancy

Autoimmune progesterone dermatitisは日本語の病名がないため、このまま使います。

非常に珍しい病気です。

特に妊娠中に特異的というわけではないのですが、産後でも発症することがあります。

血中プロゲステロン濃度によってに皮疹が悪化や改善するため、月経周期と関連します。

症状

じんましん様、痤瘡様、多形滲出性紅斑など様々な皮疹を呈します。

痒疹がでてきたり、口腔内の潰瘍もでることがあります。

治療

皮膚科医としては、皮疹に合わせて対応することになります。

最終的には出産してもらうと改善することもあるのですが、続くようであればプロゲステロンを抑えるような治療が必要になります。

妊娠性丘疹状皮膚炎 (Papular dermatitis of pregnancy)

1962年に妊娠性丘疹状皮膚炎が報告されましたが、今では妊娠性痒疹と同じ疾患とされています。

当時は、尿中のEstriol減少、血中Hydorocortisonの減少、自己Placental exract皮内テスト陽性といった検査所見を特徴とした疾患でした。

胎児の予後も悪いとされていましたが、今では否定的です。

以前より妊娠性痒疹と同じ疾患ではないかと言われていましたが、なぜこのような検査所見となっていたのかは不明です。

Pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy (PUPPP)

PUPPPは欧米で使用されているpolymorphic eruption of pregnancyと同じ疾患です。

また、古い教科書にはよく書かれていますが、Prurigo annularis、Early prurigo of pregnancy、Late prurigo of pregnancy、Toxemic rash of pregnancyもPUPPPと同義と今では言われています。

腹部の妊娠線条付近から始まり、浮腫性の紅斑が次第に拡大していくときに本疾患と妊娠性疱疹を疑います。

皮膚生検にて、蛍光抗体直接法で基底膜に免疫複合体の沈着がなければPUPPPと診断されます。

症状

掻痒の強い紅斑性じんましん様の皮疹で、丘疹が混在します。

腹部、臀部、大腿部、四肢に現れ、分娩後に急速に消退します。

治療

外用ステロイドや抗ヒスタミン薬で経過をみることが多いです。

重症例ではステロイド内服を行うことがあります。


他にも妊娠を契機に生じる疾患はありますが、代表的なものを紹介しました。

心配事が多くなる妊娠期ですが、この記事が少しでも手助けになったら嬉しいです。

参考文献

女性の皮膚トラブルFAQ 診断と治療社

あたらしい皮膚科 第3版 中山書店

皮膚科学 第10版 金芳堂

Pruritis gravidarum StatPearls NCBI Bookshelf

Spangler AS, Reddy W, Bardawil WA, et al: Papular dermatitis of pregnancy. JAMA 1962;181:577-581

全身性疾患・内臓疾患の皮膚病変 日本医事新報社

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